AI時代にMBAに通う意味はあるのか——京都大学で学び始める39歳の答え

「ChatGPTがあるのに、MBAに行く意味あるの?」

先日、友人にこう聞かれた。

悪気のない、純粋な疑問だった。いまやChatGPTに「ポーターの5フォース分析で市場を評価して」と入力すれば、数十秒で整理された回答が返ってくる。MBAの教室で2年かけて学ぶことを、AIは一瞬で提供してくれる。

この春から、京都大学経営管理大学院に通い始める。39歳。経営コンサルタントとして中小企業の支援を行い、自分自身もAIを25人のチームとして活用しながら会社を経営している。AIの力は、誰よりも実感しているつもりだ。

それでも、MBAに通う。

この記事では、その理由を書いてみたいと思う。同時に、「MBA不要論」にも正面から向き合う。逃げずに。


AIにできること、できないこと

まず、率直に認めよう。知識の取得において、AIはすでにMBAを凌駕している。

経営戦略のフレームワーク、財務分析の手法、マーケティング理論——これらを「知る」だけなら、AIに聞けばいい。教科書を読むより速く、網羅的に、しかも自分の業界に合わせてカスタマイズされた回答が返ってくる。

だが、経営の現場で本当に必要なのは「知っていること」ではない。

ある製造業の経営者が、主力製品の売上が3年連続で下がっている状況で「撤退するか、踏ん張るか」を判断する場面を想像してほしい。ポーターの5フォースもBCGマトリクスも知っている。AIに分析させれば「撤退が合理的」と出るかもしれない。しかし、その製品を20年間作り続けてきた職人たちの顔が浮かぶ。地域の雇用への影響も頭をよぎる。取引先との信頼関係もある。

フレームワークを「知っている」ことと、修羅場でそれを「使える」ことの間には、深い溝がある。AIは答えを出す。だが、その答えを前にして「本当にそれでいいのか」と問い直す力は、人間の側にしかない。


MBA不要論への正面回答

ここで、MBA不要論の根拠にも正面から向き合っておきたい。

ハーバード・ビジネス・スクールの2024年卒業生のうち、卒業後3ヶ月が経過しても23%が未就職だったという報道がある。世界最高峰のMBAを出ても、職に就けない人がこれだけいる。

AIがジュニアMBA人材の仕事を直接代替し始めている現実もある。戦略コンサルのジュニアアナリストが担っていた市場分析やスライド作成は、すでにAIの得意領域だ。2年間の学費と機会コストを考えれば、ROIが急激に悪化しているという指摘には一理ある。

さらに言えば、経営コンサルタントである私が「経営を学びに行く」という構図自体に矛盾がある。教える側が教わりに行くのか、と。クライアントは学位ではなく成果で判断する。それも分かっている。

それでも、通う理由がある。

一つ目は、「問いの質」を上げるためだ。AIは与えられた問いに対して最適な答えを返す。だが、経営において最も重要なのは「正しい問いを立てること」そのものだ。多様なバックグラウンドを持つ社会人たちとのケースディスカッションは、自分が無意識に前提としていることを揺さぶる。これはAIとの対話では起きにくい。

二つ目は、「判断の型」を体得するためだ。知識としてのフレームワークではなく、不確実な状況下で意思決定を重ねる訓練。これは座学ではなく、ケーススタディを通じた実践でしか身につかない。

三つ目は、人的ネットワークだ。AIの時代だからこそ、志を持った人間同士のつながりの価値は上がっている。同じ教室で議論を重ねた仲間は、LinkedInのつながりとは質が違う。

MBAは「知識取得の場」としてはすでにAIに負けている。だが、「判断力×ネットワーク×思考の型」を統合的に鍛える場としては、むしろAI時代にこそ意味が増しているのではないだろうか。


なぜ京都大学を選んだか

全国にMBAプログラムはいくつもある。その中で京都大学経営管理大学院を選んだ理由は、大きく三つある。

第一に、理論と実践の架橋を重視するカリキュラム。京大GSMは社会人比率が71%、平均年齢は30.9歳。教室にいるのは「教科書を学びたい学生」ではなく、「現場の課題を理論で整理したい実務家」たちだ。この環境が、私の求めるものに最も近い。

第二に、多様な社会人との議論の場。一般選抜の倍率は5.12倍。それだけの競争を勝ち抜いた多様なバックグラウンドの人たちとの対話は、自分の思考の死角を照らしてくれるはずだ。

第三に、京都という土地の知的風土。これは論理で説明しにくいが、京都に住み、京都で仕事をしている者として感じることがある。千年の歴史を持つこの街には、「新しいものを取り入れながら、古いものを捨てない」という知恵がある。AI時代に経営を学ぶにあたって、効率だけを追い求めない思考の土壌は、意外に大切ではないかと考えている。


39歳のMBA——遅いのか、ちょうどいいのか

「39歳からMBA、遅くないですか?」

これもよく聞かれる。データを見てみよう。国内MBA取得者の平均年齢は35歳。30代〜40代が全体の66%を占める。むしろ、ある程度の実務経験を積んだ層がボリュームゾーンだ。

そして、私自身の実感として言えるのは、20代でMBAに通っていたら、おそらく「答え」を探しに行っていただろうということだ。

コンサルティングの現場で数々の経営課題に向き合い、自分で事業を起こし、海外展開も経験した。うまくいったことも、痛い目を見たことも、それなりにある。その上でMBAに通うと、得られるものの質が変わる。「この理論は知らなかった」ではなく、「あの時の判断は、この理論で説明がつく」という接続が起きる。

経験という土壌に、理論という種を蒔く。その順番が、39歳のMBAの意味だと思っている。


このシリーズで書いていくこと

「AI時代のMBA」シリーズとして、京都大学での学びを定期的に発信していく予定だ。

経営理論を学びながら、それをAIでどう実装に変えられるかを考える。クラスメートとの議論から見えてくるものを共有する。古典的な経営学が、AI時代にどう再解釈されるのかを探る。

経営者やビジネスパーソンにとって、「学び直し」を検討する際のひとつの判断材料になれば幸いだ。


AIは「答え」をくれる。経営者に必要なのは「問い」を立てる力だ

最後に、冒頭の友人の問いに戻ろう。

「ChatGPTがあるのに、MBAに行く意味あるの?」

私の答えはこうだ。

AIは、問いを与えれば驚くほど精緻な答えを返してくれる。だが、どんなに優秀なAIも、「何を問うべきか」は教えてくれない。経営者にとって最も重要なのは、正しい答えを出すことではなく、正しい問いを立てることだ。

MBAは、その「問いの筋力」を鍛える場だと考えている。

多様な背景を持つ人たちとの議論。理論と実践の往復。自分の前提を疑う習慣。これらは、AIとの対話だけでは得られにくいものだ。

もちろん、MBAが万人に必要だとは思わない。「いつ・誰が・何の目的で」通うかによって、その価値は根本的に分岐する。しかし、39歳の経営コンサルタントが、AI時代に「経営OSの更新」として京都大学を選んだ判断は、少なくとも私にとっては合理的だと確信している。

あなたはどう思いますか?


※本記事の事例は、筆者の支援・研修経験および調査・取材に基づいています。プライバシー保護のため、企業名・人物・状況等は架空の設定を含み、再構成しています。


山本高資|合同会社 才有る者の楽園 代表
京都府在住。中小企業向け経営支援・AI研修を手がける。2026年春より京都大学経営管理大学院に在籍。独自の「才有る式経営フレームワーク」を構築し、理念駆動型プロダクトアウト企業の伴走支援を行う。

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