西陣に事務所を構えた理由

2026年3月15日、京都・西陣に新しい事務所を構えた。

「なぜ西陣を?」と聞かれることが増えた。答えるたびに、少し考える間が生まれる。単純な理由ではないからだ。

京都で仕事をするということ

もともと京都に縁がある。経営コンサルタントとして、クライアントは全国にいるし、打ち合わせの多くはZoomだ。物理的な場所は、どこでもよかった。

だから最初、事務所を構えること自体に積極的ではなかった。コストがかかる。管理が増える。自宅で十分じゃないか、と。

それでも、西陣に決めた。

西陣という場所が持つ文法

西陣は、かつて日本最大の絹織物産地だった。室町時代から続く職人の町。今も路地に入ると、機織り機の音が聞こえることがある。

この町には独特の文法がある。

技術は代々、口頭と手仕事で継承される。設計図より先に、身体が動く。職人たちは「なぜこうするのか」という問いに、言葉でなく作品で答えてきた。売れるものを作るのではなく、作りたいものを作り続けることで、結果として市場が生まれた。

これは、私がクライアントに伝え続けていることと、驚くほど重なる。

志の高い「ほんまもん」の経営——自分たちの哲学を起点に商品やサービスを設計し、そこに共鳴する顧客と深い関係を築く経営のかたち。私が支援する企業の多くは、職人気質の経営者が率いる中小企業だ。

西陣の町全体が、そのフレームワークの生きた教科書に見えた。

「場所」が生む思考の質

自宅で仕事をするとき、思考は平面的になりやすい。画面と自分の間で、言葉とデータが往復する。

事務所に来ると、何かが変わる。

朝、西陣の路地を歩いて出勤する。築年数を積んだ町家が並ぶ通りに、現代のカフェや小さなデザイン事務所が混在している。この混在が、私には心地よい。古いものと新しいものが、排除し合わずに並んでいる。

私の仕事も、それに近い。AI 31人チームを率いながら、人間の経営判断と組織の哲学を扱う。テクノロジーと人文が、同じテーブルに座る仕事だ。

西陣の景色は、その感覚を毎朝リセットしてくれる。

1人社長とAI 31人と、物理的な場所

私の会社には、AIで構成した「参謀団」がいる。戦略立案、財務分析、コンテンツ制作、リスクチェック——31の役割を担うAIチームと、毎日仕事をしている。

これは冗談でも比喩でもない。実際に、朝・昼・夜の3ウェーブで各チームが動き、私への報告と提案を出してくる。

この働き方を説明すると、よく「孤独ではないか」と聞かれる。物理的な同僚がいない環境で、孤独を感じないのか、と。

正直に言えば、孤独とは少し違う感覚がある。AIは、疲れない。感情的にならない。常に論理的に、私の判断を補助してくれる。

ただ、そこには確かに「何か」が欠けている。

体温のある空間、というのが近いかもしれない。物理的な場所に座り、外の音を聞き、季節の変化を感じる。その積み重ねが、AIには代替できない思考の厚みを生む気がしている。

事務所は、その厚みを保つための場所だ。

経営者が「場所」を持つ意味

経営者は、意識的に「アンカー」を設計する必要があると思っている。

業務は分散できる。判断はAIが補助できる。移動も減らせる。しかしその分、自分を中心に引き戻す仕組みが必要になる。

場所は、強力なアンカーになる。

ここに来ると仕事をする。この机に座ると、考える。西陣の窓から見える景色が、今日の自分の状態を教えてくれる——そういうルーティンが、判断の精度を上げる。

経営の本質は、意思決定の積み重ねだ。良い意思決定は、良い状態の自分から生まれる。場所は、その状態を整える装置になる。

結局のところ

西陣を選んだのは、理念の一致だったと思う。

技術より哲学を先に置く。売れるものより、信じるものを作る。長い時間軸で、深く関係を築く。

この町が何百年もかけて体現してきたことが、私がクライアントに伝えたいことと重なった。

毎朝、西陣の路地を歩いて事務所に向かう。それだけで、今日何のために仕事をするのかを、少し思い出せる気がしている。

場所は、思想のアンカーだ。


※本記事は、筆者の経営支援・研修の実務経験に基づく知見と考察をもとに執筆しています。事例として登場する企業名・人物・状況等は、プライバシー保護のため架空の設定を含み、再構成しています。


山本高資|合同会社 才有る者の楽園 代表
京都を拠点に、志の高いほんまもん系企業への経営支援を行う。AI活用・DX推進、組織変革、新規事業開発が主な領域。

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